こんにちは。WordCamp Tokyo 2017実行委員会の高橋文樹です。
様々なシチュエーションでWebサイトを利用する機会が増え、Webアクセシビリティの重要性は向上し続けています。
Webアクセシビリティというと、「障害者にかんすることでしょ」「政府関係のサイトだけでしょ」などといった思い違いをしてしまいがちですが、それよりももっと広い範囲の利用可能性についての概念です。
今回はそんなWebアクセシビリティについて、第一人者ともいえる株式会社インフォアクシアの植木真さん(担当セッション これだけは知っておきたい「Webアクセシビリティ」のこと)にお話をうかがいました。
——それではよろしくおねがいいたします。
植木 真 よろしくお願いします!
——まず植木さんといえば、Webアクセシビリティの第一人者としてよくお名前をお聞きするのですが、初めての方もいらっしゃるかもしれませんので、簡単に自己紹介をいただいてもよろしいでしょうか。
植 はい。株式会社インフォアクシアの植木と申します。Webアクセシビリティのコンサルタントを15年以上やっていて、主に企業のWeb担当者さんや制作会社さんのアクセシビリティ対応をサポートしています。また、WebコンテンツのJIS規格やW3Cのガイドラインを作成するワーキンググループなどにも参画しています。
——ありがとうございます。私などからすると植木さんは「Webアクセシビリティの中の人」というイメージです(笑)
Webアクセシビリティの標準化に長年尽力されていますよが、どういった経緯で、そのような活動をされるようになったのですか?
植 2004年に初めて公示された「JIS X 8341-3」には、2004年版、2010年版、そして2016年版とそれぞれの原案作成に参加してきましたし、W3Cのワーキンググループでは「WCAG 2.0」そして現在は「WCAG 2.1」の作成に関わっているところです。
きっかけは……2004年版の原案を作成している頃に、最初はオブザーバとして作業部会に参加するようになって、その後、委員として正式に参加するようになったのが最初のきっかけです。
そして、2004年6月に「JIS X 8341-3:2004」が公示された後、W3Cでは「WCAG 2.0」のワーキングドラフトを作成していて、JIS規格だけにある基準をWCAGでも採用してもらえるように提案していく目的で、W3Cのワーキンググループにも参加するようになりました。
——では、仕事で関わったのがきっかけということでしょうか。
植 JIS規格やWCAGの作業に参加するようになったのは、もちろんWebアクセシビリティの仕事の延長ということになりますね。
——なるほど。ありがとうございます。
誰がWebアクセシビリティに取り組んでいるのか?
——仕事という観点から、不勉強を承知で質問させていただきたいのですが、Webアクセシビリティというと、官公庁などのサイトが多いと2007年ぐらいの私は思っていました。同じように考えている人はいまも多いのかなと感じるのですが、この間違いを正すにはなんと伝えるのがよいのでしょう?
植 私は15年以上、Webアクセシビリティのコンサルタントをやっていますが、クライアントのほとんどは企業さんです。
たしかに、総務省が省庁や自治体などの公的機関のWebサイトに対して、「JIS X 8341-3」への対応を長年推奨してきているので、ことJIS規格への対応ということで捉えるならば、数としては公的機関のほうが圧倒的に多いと思います。
——企業さんはどのような目的でアクセシビリティの向上にふみきるのでしょうか?
植 どうしても「アクセシビリティ=障害者対応」のように脳内変換する方が多く、「福祉」のような目で捉えている人が多いのだと思います。
——確かに私もそういうところがありますね。
植 2004年に初めてJIS規格が出来た頃は、「Web標準」や「検索エンジン最適化」との相乗効果というのが大きかったように思います。
一方で、CSR(企業の社会的責任)という観点から取り組みを始めた企業さんも幾つかありましたが、そういう場合はほとんど長続きしないですね。また、最近は「UX」ってみんな言っていますけど、CS(顧客満足度)の向上のためにという企業さんもいらっしゃいましたね。
——なるほど。
植 あと、近年増えてきているのは、海外諸国ではWebアクセシビリティの確保が法律で義務化されるようになってきているので、グローバル企業さんなんかは海外拠点からの要望を受けて動き出すとか、2020年の東京オリンピック、パラリンピックのスポンサー企業さんが動き始めたりとかしていますね。
他には、昨年4月から施行された「障害者差別解消法」をふまえて、Webアクセシビリティに取り組み始めるというケースもあったりします。あと、日本は世界一断トツの高齢化が進んでいる国なので、高齢化が進んでいる顧客に情報やサービスを提供するメディアとしてのWebのアクセシビリティを向上していくという目的をお持ちのケースもあります。
——多様性を志向する社会的要請があって、それを実現するためにWebアクセシビリティの向上に努め始めているという大きな流れがあるわけですね。
植 そうですね。企業さんに限って言えば、「時代や社会からの要請」と「品質基準としての認知」という側面があるように感じています。
あ、もうひとつ「機会損失の回避」もありますね。
これは単純に、「アクセシビリティを確保する」=「より多くの利用環境をカバーすることができる」となるので、より多くのユーザーに、より多くの利用環境から、より多くの場面で、情報やサービスを利用してもらえることになるわけで……そうなれば従来よりも多くのビジネスチャンス(機会)が発生することにつながるということですね。
——たしかにそうですね。
植 Before/Afterでの数値による検証は難しいですし、そもそもどれだけ機会損失をしているのかも数値で示すことは難しいと思いますけど……例えば、アクセシビリティのガイドラインに書いてある基準を満たすと、まずこういう障害のある人が使えるようになるという改善があります。
そしてそれだけには留まらずに、他にもいろいろなユーザーにとって使いやすくなることがあったり、検索エンジン最適化(あえて「SEO」とは言いません)にもプラスになったり、そういったメリットを説明していくと、企業さんでも一過性の取組ではなく、組織的な取組として定着させていこうという話になっていきますね。
「UX」や「SEO」なんかには潤沢な予算がついていたりしますが、「アクセシビリティ」はそれらとの関連性や親和性も高いですしね。
Webアクセシビリティは誰のためのもの?
——実はこのインタビューに際して事前に予習をしたのですが、植木さんのインフォアクシアが運営されている a11y.jp(エーイレブンワイ) というサイトのコンテンツ、素晴らしいですね。
植 恐縮です(笑)まだ準備中のコンテンツが多いのですが、少しずつコンテンツを追加しているところです。
——それで、エーイレブンワイで勉強させていただいて「なるほど」と思ったのですが、アクセシビリティだとついつい障害者や高齢者だけだと思ってしまいますが、シチュエーションによっていわゆる健常者でもアクセシビリティの恩恵に与ることがありえますよね。たとえば、災害時ですとか、あとは運転中なんかもそうでしょうか。
植 私自身、老眼が進んでいるので、色のコントラストが確保されたデザインのページは、外出中に日光のある場所でスマホを見ていても、ストレスなく読むことができます。
先日も居酒屋で「あの動画見た?」「え、まだ見てない」となって、その場でスマホを取り出してYouTubeを見たのですが、周りが騒がしくて、キャプション(字幕)が付いていればなぁ……って思ったり。
あとは、腱鞘炎になったWeb屋さんは、しばらくの間、マウスやキーボードで操作したり入力したりするのが辛いとか、普段は全く問題がない人でも、一時的に○○できない、○○しづらいということは、よくある話ですからね。
——私も最近、ポケモンGoのやりすぎで親指が痛くて、スマホ操作しづらいなと思うことがよくあります(笑)
植 それは自業自得かも(笑)でも、そんなときでもストレスなく利用できたらハッピーというか、満足度高くなりますよね?
——そうですね(笑)
植 電話機も、昔はダイヤル式だったのが、ダイヤルを回しづらい人のためにプッシュホン式が発明されて、それが操作しやすいので一般化していったという話もありますしね。
——アクセシビリティの向上によって利用機会が増えるというのは、わかりやすいメリットですよね。
Webアクセシビリティについて学ぶべき人とは?
——さて、アクセシビリティを向上させる重要性については、本編のセッションでさらに詳しくお話しいただけると思うのですが、このセッションは特にどんな人に聞いてほしいですか?
植 そうですね~、「アクセシビリティ? 自分には関係ないや」って思っている人でしょうか(笑)
まだまだそういう意識の方が大多数のような実感を持っているのですが、でもそういう人でも無意識にアクセシビリティを確保していたりするんですよ。
実はすでにもうやっていた事が多かったとか、「アクセシビリティ」とは思わずにやっていたけど、そういうプラス効果があったのか!という感想が聞けたらと思っています。
——おっ、そこらへんの詳細は本編にとっておいていただいた方がいいかもしれません(笑)
もう2,3年前になりますが、私の知人がtwitter Bootstrapを採用したときに、公式ページにあるHTMLをコピペして作っていたのですが、role="menu"
などの記述を「なんだこりゃ?」といって全部消してしまったんですね。
そういう意味で、HTMLを書くことがある人は全員聞いておくべきかもしれません。
植 「アクセシビリティあるある」ですね(笑)
——あるあるなんですね。
植 WordPressは、近年特にアクセシビリティに力を入れ始めています。
プラグインやテーマなんかもいろいろありますが、そういうのをただ使っていただけでは応用が利かないので、セッションでは、やや一般論になるかもしれませんが、基本の「キ」を押さえてもらって、「それが実現できるプラグインなのか? テーマなのか? アドオンなのか?」という視点を持ってもらえたらと思っています。30分しかないですけど(苦笑)
——それは楽しみです。
植 それらは「ツール」でしかないと思うので、実際に使える「道具」かどうかを見極められるようになるためのポイントをほんの少しでも紹介できたらと思っています。
——マークアップエンジニアからWeb担当者、ディレクターまで幅広く役に立つセッションになりそうです。本日はお時間いただきまして、ありがとうございました。
植 そうですね、「アクセシビリティ」を知ってもらうきっかけが作れたらと思っています。こちらこそ、ありがとうございました!
さて、いかがでしたか? 植木さんのセッション「これだけは知っておきたい「Webアクセシビリティ」のこと」は9/16(土)のセッションデイに行われます。まだ申し込みが済んでいない方は、チケットを登録しましょう!